✦フォーカシングと表現アーツの出会い

「なぜ、表現アーツなの?」

 今、アートセラピーも百花繚乱、色々入り乱れています。それだけニーズがあるということでしょう。アートセラピーを芸術療法と呼んで、すべてのアートセラピーを包括しているのだ!と主張する人もいます。いやいや、全てを包括するのはクリエイティブアーツセラピーである!という見方もあります。

 芸術療法は、20世紀初めから、欧米で試みられ始めました。精神科の治療や心理療法に、芸術表現を活かせるのではないか、という発想がそのうちのひとつ。もうひとつは、芸術教育のなかから生まれ、芸術活動そのものに癒しと成長の力があるのではないか、という発想でした。現在、海外の状況も含めると、一般的に「アートセラピー」というのは、描画を始め、ビジュアルアートを扱うセラピーを指します。他にも、ダンスセラピー、ムーブメントセラピー、音楽療法、サイコドラマ、プレイバックシアターなど、さまざまな芸術療法が発展していきました。

 1970年代に入ると、そのどれも使う!という、表現療法、のちの表現アーツセラピーが、アメリカの西海岸と東海岸で同時発生的に生まれてきます。表現アーツでは、セラピストに必要なのは「Low skill, High sensitivity」と言われます。表現アーツセラピストは、絵画や音楽など、各芸術領域の専門家ではなく、その表現がクライエントにどのように体験されるか、どのような素材や表現のモダリティが適しているかについてわかっている人である、という主張です。ナタリー・ロジャーズ、ショーン・マクニフ、パオロ・クニルといったパイオニアにあたる先生方が、新しい道を切り開いていきました。

 さて、本題です。なぜ、フォーカシングと表現アーツの相性が良いのか。それは、フェルトセンスを表現するシンボルには、色々なモダリティがありうるから、です。フェルトセンスは、私たちが生活する中で、言葉にはなっていないけれど、からだで感じている意味感覚(たとえば、もやもやとか、むかむかとか)のこと。フェルトセンスを表すシンボルは、イメージにも、言葉にも、動きにも、音にもなりえます。フェルトセンスの複雑精妙さを、より丁寧に表現してから、その意味を見出そうとするならば、表現アーツを試してみる価値はあります。

 フェルトセンスを言葉にする前に、より身体的なプロセスを経るのです。そのもやもや、その感じをそのままとらえ、動いたり、声を出したり、色を描いてみたり・・・「それ」になってみたり、対話をしたり・・・そのフェルトセンスが必要としている表現を存分にしてから、言葉にするという作業をします。表現アーツは、フェルトセンスのエネルギーや質感を捉える作業を自由にさせてくれます。

 フォーカシングと表現アーツとの出会いは、とても自然な成り行きなのです。

 その幸運な出会いは、ローリー・ラパポート*先生のなかで育まれていきました。フェルトセンスを大事にすることによって、すぐには言葉にならないフェルトセンスにふさわしい表現を与える方法が、見つかっていったのです。

フォーカシング指向表現アーツでの描画

Passions and Ground. Being together.

(投稿:小坂淑子 FOAT®の専門性を持つ国際フォーカシング研究所認定トレーナー・フォーカシング指向セラピスト)

*:ローリー・ラパポート Laury Rappaport, Ph.D., LMFT, ATR-BC, REAT. Focusing and Expressive Arts Institute 創設・主宰