✦Slow is fast.
Slow is fast.
スロー・イズ・ファスト
阿部トレーナーによるコラムです。
とてもフォーカシング的なプロセス、やりとり。フォーカシングを学ぶことはこんなふうに日常に活きる、活かせると思います。ぜひおしまいまでどうぞ。
初めて、「タイパ」と聞いたとき、なんのことやら、さっぱりわからなかった。
「タイパ」とは、タイムパフォーマンスの略。今どき、タイパがいいように、録画は倍速で見て、つまらなければ途中で止めるという。だから、ドラマの脚本も、黙って演技で見せるよりもセリフが多くなりつつあるのだとか。はぁ。
そういえば、今どき、見たいもの食べたいもの訪れたいところをきっちり計画して、タイパよくまわる旅行が流行りとの記事も読んだ。それ故に、お天気やアクシデントで予定通りにいかないと、ストレスが溜まり、トラブルになりやすいとかなんとか……ほんとかな?
もちろん、世の中タイパが全てではないのは自明の理だが、なにやら、世情気忙しく感じるのは、私の性格か、あるいは年を重ねたせいなのか。
狭い日本、そんなに急いでどこへいく
1970年代の交通安全スローガンを思いだすくらいには、私は、「今どき」から遠く離れている。
先日、ある人に相談事を切り出した。結論はAかBか、間をとってCかしかないことは、重々わかっていた。相手も、「あなたがしたいように決めていいんじゃない」との返答。間違いなく、3択だ。
がしかし。
相談事を相手にわかってもらえるように、丁寧なやり取りをしているうちに、相談事は相談事ではなくなっていった。
信頼できる相手に、時間をかけて、伝えたいことにズレがないよう言葉を選んで率直に伝え、かえってきた言葉を味わい、自分になにが起きているのか、自分はどう感じているのか、観察する。そこから産まれた新しいなにかを、言葉にして、また伝える。
相談事の、もうひとつ、もうふたつ、奥にあるものが立ち上がってくる。
より深く、より根元へ。
ああ、私の中に、こんなコンプレックスや不安が、このちくりとした痛みがあるからこそ、この相談が産まれたんだなぁ。
ただ、痛みに気づく。
そして、抱えておく。
結局、相談事の結論は出なかった。そもそも急ぎの相談ではないし、結論よりも、より深い、相談事のコアに近い気づきを得て、私は十分に満足だった。
痛みは、希望を内包している。
この痛みをやさしく大切に抱えていれば、気が熟した時に、善き結論は出るだろう。
小さな人間、そんなに急いでどこに行く
否、どこに行ける?
Slow is fast.
丁寧なやりとりを重ね、より根元に近い場所から出した結論は、きっと加速機械をつけたように、私をより早く、より遠くまで連れて行くだろう。
(文責:あべ)