✦最上の傾聴訓練法!?インタラクティブ・フォーカシング
トレーナーの堀尾です。インタラクティブ・フォーカシングについて書いてみます。
目次
インタラクティブ・フォーカシングとは?
インタラクティブ・フォーカシングは、簡単に言うと、フォーカサーとリスナーが交替して話もしながら行う相互的なフォーカシング・セッションに、特徴的なやりとりである、二重の共感の時、相互作用的応答、関係の確かめを加えたものです。1980年代の終わりにジャネット・クラインがメアリー・マクガイアと共に手順化しました。
当時ジャネットは、人とお互いに心から通じ合える関係が持てる方法を探し求め、インタラクティブ・フォーカシング・プロセスを見つけ出しました。そして手順化することで、フォーカシングと、人と人が深くほんもののつながりを持つことを結びつけようとしたのです。(Janet Klein describes how she developed Interactive Focusing|Focusing Initiatives International)
《参考》AN INTERVIEW WITH MARY MCGUIRE|The Irish Association of Humanistic & Integrative Psychotherapy
インタラクティブ・フォーカシングの概要
インタラクティブ・フォーカシングは、基本の型では、話し手と聴き手のペアになります。
下記の枠組みに沿って、話し手も聴き手も、自分の実感(「からだ」の感じ)に触れながら、話しをし、聴きます。
実感に触れながらすることで、単なる感情以上の、もっと複雑な、状況を反映した、微妙な気持ち・感じ・感覚まで含みこむことができます。
インタラクティブ・フォーカシングの枠組みには、出来事や事柄を含めた聴いてほしい、わかってほしい「話」をすることが含まれています。
(フォーカシングの場合は、出来事や事柄を説明せずにできることが利点です)
フォーカシングと違い、聴き手が自分の感じたことを話し手に伝える段階が含まれています。
充分実感に触れながら話しをし、また、聴くことができると、とても満足感のあるセッションがもてます。
-インタラクティブ・フォーカシングの枠組みの概略-
話し手が教える傾聴(伝え返しと修正)
1.話し手は、実感に触れながら話をする。
2.聴き手は、自分の実感に響いた言葉を伝え返す。
3.話し手は、聴き手の言葉を「からだ」に起きていること(実感)とつき合わせて、必要なら修正したり、付け加えたりする(話し手が教える)。
(話が一段落するまで、あるいは、時間の範囲内で、以上を繰り返す)
二重の共感
4.聴き手から話し手への共感的応答+話し手も自分に対して共感的に振り返る。
相互作用的応答
5.今度は先ほどまでの聴き手が話し手となり、さっき聴いた話がどのように自分自身に触れたか、その話をする。先ほどまでの話し手は聴き手となって聴く。このようにして、役割を交代して、1〜3を行う。
相互作用的応答についての二重の共感
6.聴き手から話し手への共感的応答+話し手も自分に対して共感的に振り返る。
関係の確かめ
7.今、自分自身についてどう感じているか,そして、今、相手と自分の関係をどう感じているかを、お互いにわかち合う。
※4まで行うことはシングルウィング,7まではフルセッションと呼ばれています。
4つの礎
インタラクティブ・フォーカシングの枠組みを支える4つの土台です。
- 安全・安心な環境:安心かどうかが分かるのは自分、自分の安全は自分で守る、自分を大切に。
- からだの感じ:いつもからだの感じに注意を向けながら、実感にとどまりながら
- 共感的傾聴:聴き手は、話しの奥、瞳の奥にいるそのひと( そこにひとがいる)に、からだの感じから耳を傾ける。
- 話し手が主役:なにがどのように必要か分かっているのは話し手、話し手のからだの感じがそれを教えてくれる。だから、聴き手の聴き方が違っていたら、話し手は聴き手に教える。
インタラクティブ・フォーカシングと傾聴
インタラクティブ・フォーカシングは、ロジャーズ派のカウンセリングが機能した際の相互作用が起きるよう構造化されていると言われています。
インタラクティブ・フォーカシングを行うことで、相手の準拠枠(internal frame of reference:内的準拠枠)に沿って聴く、「内側から(理解する)」とはどういうことかを体験できると思います。話し手が感じていることか、話し手の話を聴いて自分が感じていることかを区別する練習にもなりますし、聴き手の思い入れや思い込みに気づく練習にもなります。
話し手になった時には、自己一致して話す練習になります。自分自身に受容的共感的態度を向け、なにが言いたいのか、どんな気持ちなのかを、メタ認知的に捉える訓練にもなります。
傾聴訓練としてのインタラクティブ・フォーカシングに関心をお持ちの方には、下記論文が参考になると思います。
- 吉水ちひろ「共感的傾聴トレーニングとしてのインタラクティブ・フォーカシング : 大学院授業におけるプログラムの試み」仁愛大学研究紀要. 人間学部篇, 2018-03-31, no.16, pp.33-42.
- 吉水ちひろ「インタラクティブ・フォーカシングで身につける共感的コミュニケーション:心理臨床初学者の傾聴スキルの様相」仁愛大学附属心理臨床センター紀要. 仁愛大学附属心理臨床センター, 2022-04-30, no.17, pp.45-57.
- 吉水ちひろ「コミュニケーションにおける共感的な自己表現について:体験過程尺度からの一考察」仁愛大学附属心理臨床センター紀要. 仁愛大学附属心理臨床センター, 2023-04-30, no.18, pp.29-40.
相談業務やカウンセリング、セラピーなど対人支援・対人援助において、クライアントさんへの、共感やコンパッションの表明も、「誰しもそうなると思います」「もっともなことだと思います」「それはすごいことだと思います」といった応答は、お話を聴く側の実感レベルから発せられないと上滑りします。
実感レベルで聴くことを、耕したり探究したりすることに効果的なのが、インタラクティブ・フォーカシングによる傾聴練習です。
ちゃんと聴けているんだろうかと思っている方にもおすすめです。
インタラクティブ・フォーカシングは、それをリアルタイムで確かめられる枠組みになっています。
フォーカシング・プロセスとインタラクティブ・フォーカシング
フォーカシング・プロセス
体験(感じていることや言い表したいこと)を、丁寧にしっくりくることばにすることで(表層的でない)実感を伴う理解・気づきが生じるのがフォーカシング・プロセスです。
私たちは早いことに価値がおかれた社会に生きているので、しばしばほとんどぱっと反応的に言葉にして分かったこと、済んだことにしています。
あえて立ち止まって、これ(このことば)でいいかなあ、どうかあと確かめてみることで、よりしっくりことばが立ち現れてきたり、ああ、確かにこれでいいのだと納得感を得たりすることができます。
インタラクティブ・フォーカシングでは、聴き手が、話し手の話の大事なところ(聴いていて響くところ)を伝え返しながら聴いてくれるので、自然とこのプロセスを体験することができます。
Noと言える関係性
この時要になるのはNoと言える関係性です。これが安心安全の土台になります。
インタラクティブ・フォーカシングでは、FAT(Focuser as Teacher)法がその枠組みに取り込まれています。
上述した「4つの礎」の4.話し手が主役 のところです。
FATは簡単に言うと、聴き手は話し手とは別の存在なので違っていたりズレたりたとえ分からなくても当然、だから、合っている(Yes)か違っている(No)か話し手に教えてもらいましょう、という考え方と方法です。
インタラクティブ・フォーカシングを枠組みに沿って行おうとすれば、話し手は聴き手任せにせず聴き手に教える必要があり、話し手の主体性が発揮されます。
主体性を育むプラクティス(練習・実践)と言えると思います。
また、カウンセラーやセラピストなどにとっては、話し手から教えてもらいながら(フィードバックをもらいながら)聴くことに慣れるための、良い練習となるでしょう。
インタラクティブ・フォーカシングを学ぶ利点
内容にとらわれずに、その人全体を聴く
インタラクティブ・フォーカシングの枠組みで聴く練習を重ねることは、内容にとらわれずに、その人全体を聴く訓練になります。
セラピーの指導を受けていた先生が「コンテント(内容)にとらわれるな」とよくおっしゃっていたのですが、インタラクティブ・フォーカシングの実践を積む中で、内容にとらわれずに相手から聞こえてくることを聞けるようになったと思います。
(そういう意味では、listen というより hear なのかもしれません)
そして、それをクライアントさんに返すことで、また一歩セラピーが進みます。
実際のセラピーでは、「ここ」というところですかさず介入することも必要なのだけれど、そればかりになると、発話の内容に関心が向き発話者であるクライエントさんから離れてしまいます。
内容1つ1つにどう返そうかと悩みだしたら、もうおしまい。
インタラクティブ・フォーカシングの実践を積むことは、そうはならずに、耳を傾けて聴くけれども、力まず、しっかりそこにいることに、確実に役立ったように思います。
ふたりの間にある事柄を扱える
フォーカシングの自主グループなどで、お互いフォーカサー/リスナーをつとめて、セッションをやった時、なにか不全感のようなものが残る時がありませんか。
振り返りで解消できればいいのですが、デリケートな問題だと話し合うこと自体難しく感じられることが少なくないかもしれません。
こういう時、お互いにインタラクティブ・フォーカシングを知っていると、インタラクティブの枠組みが持つ、公平・安全な環境の中で、この問題(自分が感じた不全感や、もやもや、相手に対して感じたことなど)をあつかうことができます。
元々インタラクティブ・フォーカシングは、ふたりの間にある事柄、わだかまり、問題を安心して公平、対等に話し合え、そして、分かり合える方法として開発されたとかつて聞きました。
2002年に、開発者のジャネット・クラインと協力者のメアリー・マクガイアによるフルセッションのデモンストレーションを、初めて観ました。
すごーく微妙な、観ていてこちらもドキドキするようなふたりの間にある事柄が扱われていて、驚きました。
セッションに限らず、なにかお互いの間にある問題について話すとしたら、もっとも公平・安全なやり方のように思います。
私は、扱い難い事もインタラクティブ・フォーカシングの枠組みなら話せると感じています。
ただ、話題によっては枠組みにしっかり沿うことは簡単ではなく、今も実践しながら学んでいます。
もし、自主グループなどに参加していらっしゃるとしたら、グループみんながインタラウティブ・フォーカシングを知っていることは、グループの運営にとても役立つものだと思います。
実践しながら学んだことの一つは、最初の聴き手となり2番目の話し手をする時、あくまで、その前段階の共感的応答に根差した話に留めるということです。
話を聴き、それが自分に触れると、相手に分かってもらいたい気持ちが動きます。それは、この段階では含めない方がよいように思います。
最初の話し手に分かってもらいたい気持ちを話す時には、さらに、もう1ラウンド、今度は、最初の話し手が最初の聴き手になって行い、それら二つのラウンドが終わった段階で、「関係の確かめ」を行うのがよさそうです。
(1ラウンド目の「関係の確かめ」をしていいのか、省いたほうがいいいのかは、これから探究する事柄となっています)
カップルセラピーへの応用
したがって、もちろんカップルセラピーに用いられています。
下方の参考書籍に挙げた『解決指向フォーカシング療法』11章「合同面接:相互的にかかわる技」で著者のバラ・ジェイソンが、カップルとのインタラクティブ・フォーカシング・プロセスの逐語記録を掲載しています。
この本の「推薦」で長谷川啓三先生は、この本ではじめてインタラクティブ・フォーカシングを知った、カップルとのインタラクティブ・フォーカシングに期待させるものを感じると書いておられます。
インタラクティブ・フォーカシングを日常に活かす
ピア・カウンセリングや対人援助者、感情労働者同士が互いにサポートし合う方法として使えます。
情緒的な話題に限らず、インタラクティブ・フォーカシングを用いることで、運営や企画その他一般的な業務について、スムーズに素早く核心に触れる話し合いができます。
練習についての覚え書き
慣れないうちは
3人組以上オブザーバーがいる状況で、まずは「二重の共感」でおしまいにするシングルウィングでの練習を重ねることが安全安心かもしれません。
ただし、よく慣れた方に付いていてもらえるなら、フルセッション(関係の確かめまで)でやるとインタラクティブの醍醐味が3倍味わえると思います。
その場合にも、初心の練習のうちは、ふたり(話し手と聴き手)の間にあることについて話すのはなしにした方が良いかもしれません。
やってもよさそうかどうか、それぞれのフェルトセンスでしっかりと確かめましょう。
話し手と聴き手の間にあることについて話すとき
これは、たとえ聴き手に対しての明らかにポジティヴな話しであっても、シングルウィングでやる時は御法度にした方がいいように思います。
ふたりの間にあることを取り上げるなら、フルセッションであることが不可欠だと思います。
なぜなら、せっかくインタラクティブ・フォーカシングが持っている公平さを、シングルでは保てないからです。
聴き手が確かめたくなったり話したくなっても、シングルウイングでは、その場がありませんから。
ゆっくり行う
セッションを始めるに際には、今、目の前にいる聴き手になにを話したいかを感じる時間を持ちます。
この時ゆっくり時間をかけて、自分(話し手)だけでなく、聴き手や、場、時間などについても、充分感じて、その中から出てきたことを話すようにしましょう。
そうすれば、例えば、シングルウィングである時や時間が少ししかない時に二人の間のことを取り上げることはないと思います。
かえってある程度以上慣れた時に、不用意に始めがちです。
基本をしっかり、押さえるべきところをきちんと押さえて学び、枠組みに沿ってできるようになる必要があります。繰り返し練習することで身につきます。
参考書籍
-
- 近田輝行監修,前田満寿美・伊藤三枝子著『ハンドブック インタラクティブ・フォーカシング―からだに根ざした深いコミュニケーションを学ぶ~傾聴・共感・癒し~』インタラクティブ・フォーカシング学習会,2016
[注] 書店では購入できません。購入申込先 ⇒ インタラクティブ・フォーカシング学習会事務局<if.focusing3【@】gmail.com>(メール送信の際には【】を外し半角@に変えてください) - 近田輝行監修,前田満寿美著『セミナー インタラクティブ・フォーカシング―ジャネット・クラインとメアリー・マクガイヤーに学ぶ』前田満寿美,2021
[注] 書店では購入できません。購入申込先 ⇒ 「『セミナー インタラクティブ・フォーカシング』が刊行されました」をご参照ください。 - ジャネット・クライン著,諸富祥彦監訳,前田満寿美訳『インタラクティヴ・フォーカシング・セラピー: カウンセラーの力量アップのために』誠信書房,2005
- 宮川照子「インタラクティブ・フォーカシングの方法」近田輝行・日笠摩子編著『フォーカシング・ワークブック』2005, 日本・精神技術研究所
- 前田満寿美・伊藤三枝子「インタラクティブ・フォーカシング」村山正治監修,日笠摩子ほか編著『フォーカシングはみんなのもの: コミュニティが元気になる31の方法』2013,創元社
- 近田輝行「プロセスとしての共感的理解:インタラクティブ・フォーカシングで身につける」野島一彦監修、三國牧子ほか編著『ロジャーズの中核三条件 共感的理解 カウンセリングの本質を考える3』2015、創元社
- バラ・ジェイソン著、日笠摩子監訳「合同面接:相互的にかかわる技」『解決指向フォーカシング療法: 深いセラピーを短く・短いセラピーを深く』2009, 金剛出版
第11章「合同面接:相互的にかかわる技」は全編インタラクティブ・フォーカシングを扱っている(p.109〜137) - ビビ・サイモン著,日笠摩子監訳「インタラクティヴ・フォーカシングの教え方」『フォーカシングの心得: 内なる知恵の発見法』2016,創元社
- 堀尾直美「インタラクティブ・フォーカシング」日本人間性心理学会編『人間性心理学ハンドブック』2012,創元社
- 近田輝行監修,前田満寿美・伊藤三枝子著『ハンドブック インタラクティブ・フォーカシング―からだに根ざした深いコミュニケーションを学ぶ~傾聴・共感・癒し~』インタラクティブ・フォーカシング学習会,2016
関連ページ
インタラクティブ・フォーカシングを学べるところ・できるところ
*備考*
2018年4月28日〜30日(土〜月祝)愛知県犬山市で堀尾が担当するインタラクティブ・フォーカシングの宿泊ワークショップがあります(主催つながるいっぽ)。
つながるいっぽIF_WS犬山180428〜30案内チラシ
つながるいっぽIF_WS犬山180428〜30参加申込書
⇒好評にて終了いたしました[追記]