フォーカシングは心理療法(カウンセリング)の実証研究から生まれました。セラピスト(カウンセラー)が自らの実践を深める上でも、フォーカシングを学ぶことはおおいに役立ちます。
セラピストがフォーカシングを学ぶことのメリットの一つは、セラピーのプロセスの中で起こっていること、クライアントがセラピストに投げかけてきていることに対して、より豊かな感受性を持てるということです。何かが引っかかるというようなセラピストの主観的な感覚、あるいは、クライアントとの関係の中でなぜか反応してしまう自分がいるという気づきは、セラピーにおいて重要な意味を持っています。フォーカシングは、この感覚が意味しているものに具体的に触れ、腑に落ちる理解へとつなげるための道筋を提供します。
セラピストにとってのフォーカシングのもう一つの利点は、クライアントの語りのプロセスをより深く理解することを可能にするということです。フォーカシングでは、自分自身の感じていることに具体的に触れ、その自分自身の気持ちや感覚に受容的な注意を向け耳を傾けることを大切にします。そしてこのことはまさに、セラピーでクライアントにしてもらいたいこと、クライアントの体験が進展していくために必要なことなのです。セラピストはフォーカシングを学ぶことで、セラピーでの語りの中で何が起こっているのか、クライアントが今どんなプロセスの中にいるのか、クライアントとセラピストが一緒に大事にしていくべきものは何なのかといったことについて、一つの視点を持つことができます。
もちろん、フォーカシングのガイディングを学ぶことで、セラピーで使えるテクニックを増やす、ということも可能です。しかしフォーカシングそのものは、クライアントを変化させるためにセラピストが使うテクニックのようなものではありません。フォーカシングは、人が体験を語ることで自ら変化していくというセラピーの根幹となるプロセスに関わるものであり、セラピストがフォーカシングを学ぶということは、そのプロセスに添うまなざしと姿勢を学ぶということなのです。
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参考
- 近田輝行著『フォーカシングで身につけるカウンセリングの基本: クライエント中心療法を本当に役立てるために』2002、コスモス・ライブラリー
- 吉良安之著『セラピスト・フォーカシング: 臨床体験を吟味し心理療法に活かす』2010、岩崎学術出版社
- 池見陽編著『傾聴・心理臨床学アップデートとフォーカシング: 感じる・話す・聴くの基本』2016,ナカニシヤ出版
- 田中秀男・池見陽著「フォーカシング創成期の2つの流れ:体験過程尺度とフォーカシング教示法の源流」『Psychologist:関西大学臨床心理専門職大学院紀要』6巻、p.9-17、2016